フナツ ヤスシ   FUNATSU Yasushi
  船津 靖
   所属   広島修道大学  国際コミュニティ学部
   職種   教授
発表年月日 2016/11/26
発表テーマ 「2016年アメリカ大統領選挙におけるイスラエル・ファクター」
会議名 中・四国アメリカ学会第14回年次大会
主催者 中・四国アメリカ学会
学会区分 地方学会
発表形式 口頭(招待・特別)
単独共同区分 単独
開催地名 広島市
概要 中東パレスチナのユダヤ人国家イスラエルは、アメリカ政治において特異な重要性をもっている。2016年の大統領選挙でも民主・共和2大政党はイスラエル重視をそろって強調し、中東におけるイスラエルの軍事的優位維持への継続的な支援を確約した。
民主党は選挙綱領に、アラブ人のパレスチナ国家樹立による占領・紛争の終結を目指す「2国家和平案」を明記した。共和党はイスラエル(シオニズム)支持をアメリカニズムに重ね、同党の候補者らは「アメリカ大使館をテルアビブからユダヤ人の永遠の都エルサレムへ」と競い合って主張した。
アメリカのユダヤ系市民は全米人口の約2%にすぎない。大統領選候補者にとってイスラエルへの支持を表明することが、なぜそれほど重要なのだろうか。それは強力なIsrael Lobbyの存在が大きい。ロビーの力の背景には、ユダヤ系市民の社会的地位や政治意識の高さ、金融・情報の中心ニューヨークなどへの集住、両国間の移民・二重国籍者の活動、シオニズムを神の栄光へのプロセスとみなすキリスト教福音派の存在、そしてシェルドン・アデルソンはじめ突出したメガ・ドナーの資金力などがある。
オバマ政権は、共和党系ロビーと強く結びつくネタニヤフ政権とイラン核合意やユダヤ人入植地をめぐり対立した。ただユダヤ教「改革派」が多数を占めるユダヤ系アメリカ人の票は、伝統的に民主党支持が7-8割とされる上、ネタニヤフ政権を批判する進歩的な若者中心の和平派ユダヤ系組織の影響力が広がっている。ヒラリー・クリントン候補は、パレスチナ恒久地位交渉の合意を悲願とした夫の前大統領とともに、イスラエルの和平派野党と特に関係が深い。娘チェルシーの夫は、ドナルド・トランプ候補の娘イヴァンカの夫と同様にユダヤ系である。
トランプ候補はこの娘婿を軸に、ユダヤ系や福音派の票と資金の獲得に力を入れた。しかしユダヤ系からの支持は低所得層に多い「正統派」の一部にとどまり、アデルソンの巨額資金も上下院選に多く流れている。福音派にはトランプ候補の世俗性と同盟関与への消極性を問題視する見方が強い。
アメリカのユダヤ系市民は、ヨーロッパやロシアでほど苛烈でなかったとは言え、かつて反ユダヤ主義による露骨な差別を受けた。White nationalismともみられる「トランプ現象」に警戒感がある。親ナチスのリンドバーグがルーズベルトを破って大統領になる筋立てのフィリップ・ロスの空想歴史小説『プロット・アゲンスト・アメリカ』は、成功した現代のユダヤ系市民の心にも、社会の多数派から突然スケープゴートにされる恐怖感が潜んでいることを示している。